ジャック・ロンドン『白い牙』感想|アメリカの荒野を孤高な一匹狼が奔走する!

白い牙 ジャック・ロンドン

アメリカの大自然っていいですよねー。

でっかい山々に、ごつごつした岩、広大な大地と、一面を覆う雪。

日本の田舎にも山はたくさんありますが、人間が太刀打ちできないような、「圧倒的な大自然」という意味だと、やはりアメリカの自然には及ばないというイメージがあります。

アメリカの小説家ジャック・ロンドンによって1906年に発表された小説『白い牙』(原題:WHITE FANG)は、ゴールドラッシュ時代の荒野に生きる1頭の狼を主人公とした物語です。

厳しい自然の中で生きる孤高な狼の、強くて狡猾でたくましい姿。

また、人間との触れ合いによって次第に変化していく彼の心情。

狼の生き様とアメリカの大自然に圧倒され、胸踊らせられる小説です。

あらすじ

主人公は、犬の血を4分の1だけ引いている狼、その名も「ホワイト・ファング(白い牙)」

野生の狼として生まれ育ったホワイト・ファングは、あるとき出くわしたインディアンの集団に目をつけられ、ソリ犬としてソリを引きながら人間と旅をすることになります。

棍棒やムチで冷徹に調教してくる人間や、狼であるホワイト・ファングをのけ者にしようとする周りの犬たち。

そうした環境におかれたホワイト・ファングは、常に孤独な一匹狼として、狡猾でたくましく、そして誰よりも強く成長していくのです。

走り、闘い、ライバルを蹴落としながら、狼としての天賦の才能を研ぎ澄ませていく姿には惹き込まれるものがあります。

また、そんな孤高な狼が人間の愛情に触れた時の心情の変化、葛藤する心の描写にも胸を打たれる物語です。

アメリカの大自然vs人間

大自然

物語全体を通して描かれるアメリカの大自然の強大さには圧倒させられます。

人間の手が行き届かない未開の荒野。それも、厳しい寒さに晒される北国の荒野です。

こうした、人間には太刀打ちできないほどの強大な自然に挑み、未開の土地を切り拓いていく様子は、アメリカの小説ならではの迫力を感じます。

アメリカ人にとっては、「大自然の偉大さを畏怖しながらも、それに立ち向かっていく人間」という構図は胸躍るものがあるのかもしれません。

そんな凄みを感じる物語を、家の中でぬくぬくと読めるのは幸せなことです。

家の中にいながら、心は未開の大自然に身を置いている。これこそ、小説を読む醍醐味じゃないですか。

もしくは、どこか山奥にこもってキャンプでもしながら読んだら、また違った感覚で楽しめるのかもしれません。

特徴ある動物たちとの臨場感あふれる闘い

主人公ホワイト・ファングは、さまざまな生き物との幾度とない闘いを余儀なくされます。

そのバトルシーンの、ドラマティックで臨場感あふれる描写は見事です。

狼の牙が喉元に喰らい付くさまや、敵の攻撃を素早くかわす敏捷な身のこなし、上唇をめくれ上がらせ、牙を見せて低く唸るさまなど…

頭の中で映像として再現しやすい、的確な描写がとても読みやすいです。

登場するさまざまな動物たちや、闘い相手のキャラクターもしっかり特徴づけられています。

動物達

ホワイト・ファングの父親である隻眼の狼、通称「片目」はいわずもがな。
登場シーンは多くありませんがキャラとして強力だし、印象に残ります。

ソリ犬たちのリーダーで、ホワイト・ファングを執拗に狙って攻撃してくるライバル犬「リップ=リップ」
そのズル賢くて残忍なキャラクターは、物語には必要不可欠な存在です。彼との闘いが、ホワイト・ファングを強く成長させます。

物語後半で闘うことになるブルドッグのチェロキーも印象的です。
それまでに闘ってきた相手とは違った戦法でホワイト・ファングを翻弄させてくるシーンは、まるでバトル漫画のような面白さがあります。

ジャック・ロンドンの最も有名な作品『野性の呼び声』や本作は、児童向けにリメイクされたり、アニメや映画になったりしています。

子供たちにウケるようにリメイクされがちなのは、こういった「キャラ付け」のおかげで読まれやすいからなのかもしれません。

一応「古典」とされてはいるものの、わりと大衆寄りの、とても読みやすい小説だと思います。

孤高な一匹狼の奮闘と、人間との交流に注目

野生に生まれた狼が、人間との触れ合いによって残忍さや愛情を知っていく「狼と人」の物語

「野性」という崇高さを失わない徹底した生き方に魅了されるのもよし。

人間と狼の美しい主従関係に満足感を得るのもよし。

冷徹で氷のように固い心が愛情によって解れていくさまに酔いしれるのもよし。

好きな読み方で、何度でも堪能できる物語です。

関連作品

野性の呼び声

本作と対をなすストーリーで、「姉妹作」と言われたりもします。

『白い牙』とは対照的に、狼の血を引く、人に飼われていた犬が、自らの内に潜む「野性」を取り戻していくストーリーです。

こちらの物語の方がより力強く、ヒロイズムを感じさせる内容になっていて人気も高いようです。

個人的には甲乙つけがたく、どちらも好きです。セットで読み比べてみるのも良いかもしれません。

レッド・デッド・リデンプション2

西部開拓時代の終わりの時代を舞台にしたゲーム。
読んでると、なんだか知らんが無性にやりたくなります。
ジャック・ロンドンの小説は、こういうのが好きな人には楽しめる世界観なのかもしれません。