世界史を学び直したいっていう社会人の皆さん。
よく本屋さんで手に取りがちなのが、人類の発祥から始まって近代史まで、全ての歴史を俯瞰的に網羅した書籍です。
でもあれって、だいたい途中で読むのやめちゃったりしません?
パラパラーっと見て、それで満足しちゃってません?
本当に世界史を学び直すなら、「1つの視点から歴史を見直す」ということができる本を読むと、すごく面白いです。
この記事で紹介するのは、「お金の流れ」という視点から世界史を学び直す本、
『お金の流れでわかる世界の歴史』です。
私も読んで「経済という視点で世界史の流れを見ると、こんなにわかりやすくなるんだ!」と思えた本。学校で暗記した断片的な単語が、改めて意味を持って頭の中に並べられていく気持ちよさがあります。
「経済の視点で」って書いてますけど、経済に関する知識はほぼなくても読めます。私も株とか為替とかぼんやりとしかわかんないですが、問題なく読めました。
目次
歴史上の出来事の理由はだいたいお金
結局、国が栄えたり滅んだり、誰かが良いことしたり悪いことしたりするのは、だいたいがお金なんです。
本書を読むと、歴史上の出来事には、学校の授業ではちゃんと学ばなかった(もしくは忘れてしまった)経済上の理由が隠れていることがわかります。
ヘンリー8世の離婚問題に隠された驚愕の真実
16世紀のイギリスの王様に、ヘンリー8世という人がいます。
中学高校では、こう習ったはずです。
ヘンリー8世は離婚問題のためにローマ教皇から破門された。だから自分の国にあるイギリス国教会をローマ教会から離脱させた。
でも本書によれば、その因果関係はちょっと違うらしいのです。引用します。
簡単に言えば、ヘンリー8世は、ローマ教会から破門されるようにわざと自分から仕向けて、ローマ教会とイギリスの関係を絶ち、ローマ教会の収入を奪ったのではないか、ということである。
当時、キリスト教徒には自分の収入の10分の1を教会に支払うという「十分の一税」というものが課せられていました。
キリスト教徒が払った十分の一税は、全てローマ教皇の元に納められます。
しかしヘンリー8世がローマ教会から破門された後、ヘンリー8世は自分の国の教会であるイギリス国教会をローマ教会から離脱させます。
そして、イギリス国教会のトップはヘンリー8世自身であると自ら宣言してしまうのです。
すると、イギリスのキリスト教徒が払う十分の一税はヘンリー8世の元に納められることになります。
つまり、わざと破門されることによって、ローマ教会から十分の一税を略奪したんですね。そうやって税収を増やして、自国の財政問題を解決したと。
これがもし本当なら、ヘンリー8世すごすぎないか?賢すぎるだろ!
他にも
こんな感じで、「歴史上の様々な事件の裏には、実はこんなお金の問題があったんだよ」という、目から鱗の内容をたくさん説明してくれています。
- 「税金さえちゃんと払えば、宗教とか土地とか文化とか好きにしていいよ」っていうスタイルだったモンゴル帝国はめちゃくちゃ繁栄した
- フランスの国家財政を洗いざらい市民に公表したら、「おい王家!金使いすぎだろ!」って市民がブチギレてフランス革命が起こった
- 13州しかなかったアメリカがいっきに領土を広げられたのは、植民地経営に疲れ始めていたヨーロッパの国々から領土を買い取りまくったから。
- ユダヤ人ってすげえ。放浪しがちなユダヤ人が住み着いた場所は、だいたい世界の金融の中心地になってる。
これらはほんの1例ですが、こんな感じの内容がてんこ盛りで面白いので、「おもしれー」って読んでるうちに世界史のおさらいができます。本当に勉強になります。
喩えがわかりやすくてイメージしやすい文章
著者である大村大次郎さんの文章はとても読みやすくて、特にすばらしいのは「現代に喩えるととこんな感じ」っていう言い換えがわかりやすいことです。
例えば第二次世界大戦は、ご存知の通りドイツがポーランドに侵攻したことから始まったとされています。
でも世界史を受験勉強でしかちゃんと勉強していない人にとって、なぜドイツがポーランドへ攻め入ったのか、その理由を覚えている人はどれぐらいいるでしょうか。
大村大次郎さんはこの時のドイツの気持ちをわかりやすく喩えてくれています。
たとえば、日本で、名古屋から金沢に至る地域が他国の領土になった場合、国民は耐え難いほどの不自由さを感じるはずである。
そう、当時のドイツは下の絵のような感じで、国の一部分を奪われていたのです。
名古屋から金沢までの地域だけが「よその国」だったら、確かに嫌だわ!
しかも当時のドイツのトップはヒトラーです。
そりゃあ「取り戻せ!」って言いますよね。ポーランド攻め込みますよね。
他にも、1930年前後のイギリスと日本について、
綿製品のシェアを日本に奪われた時のイギリスの気持ちを、「今の日本に置き換えれば、自動車の輸出量を韓国に抜かれるくらいの衝撃があっただろう。」と解説しています。
なるほど、確かに衝撃だ。そりゃあ危機感覚えるわなって思います。
そういった上手な「言い換え」で、イメージが沸きやすいようにわかりやすく説明してくれるのがこの本の良いところです。
学校の授業で習う世界史って、基本的に「他人事」だから面白くないんです。でも、「この時のこの国はこんな気持ちだったのね」っていうのがわかると、身近に感じられて頭に入りやすいんだと思います。
『お金の流れでわかる世界の歴史』、興味があればぜひ読んでみてください。
著者の大村大次郎さんは、元国税調査官。
当然、税金やお金の流れには詳しい方ですし、「官僚組織って実はこういう部分があるんです」っていう知識が、ソ連の経済システムの説明に活かされていたりして興味深いです。
関連書籍
帳簿の世界史
「帳簿」を軸に、西洋の歴史を見直した『帳簿の世界史』。
「お金の管理」を上手にやっていた国は繁栄したということが本書からよくわかります。現代にも通じる教訓が得られる本です。
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独裁の世界史
その他、歴史を1つのテーマで読むならこの本『独裁の世界史』もおすすめです。
こちらは「独裁」というテーマで世界史が語られた本で、「そもそも民主政や独裁政、共和政ってどういう形態の政治のこと?」っていう、政治の基本から教えてくれる良書です。
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