- 最初の書き出しで「天気について描写する」作品は駄作?
- 感嘆符や副詞を多用する作家はダメ作家?
- プロとアマチュアの小説はなにが違うのか?
- よく言われてる「文章術」、プロもちゃんと実践してるの?
アーネスト・ヘミングウェイ、スティーヴン・キング、J.K.ローリング…
古典文学からベストセラー小説、さらにはアマチュアによる二次創作小説まで、幅広い英米文学作品の「秘密」を解き明かしているのが本書、
『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』(ベン・ブラット・著、坪野圭介・訳)です。
その検証に使うのは、「数字」。
膨大なテキストを統計的に解析することで、小説についてまことしやかに語られている様々な通説の真実を明らかにしていきます。
小説家志望の人にとっては、知っておいて損のない有益な情報が満載です。
読書好きで、英米文学に少しでも興味がある人は、本書を読むことで「新たに読みたい作品」が次々と出てくることでしょう。
数字に裏付けされた、今までにないタイプの「ブックガイド」として楽しめる1冊です。
目次
誰が書いた文章なのか?数字を見れば一目瞭然
文脈やジャンル、年代にとらわれることなく、テキストを統計学的に分析することで、想像以上にたくさんの事実が読み取れることが本書からわかります。
それは時に、犯罪捜査で使うことすらできそうな、高い精度で物事を明らかにするのです。
文章には「指紋」が残る
人間それぞれに固有の指紋があるように、人が書いた文章には、書いた人ならではの特徴が残されていると言います。
一見しただけでは誰が書いたのかわからない文章も、統計学的な調査によって採取した「指紋」と容疑者の「指紋」を照合することで、書き手を特定することが可能になるのだそうです。
指紋=判断材料の1つとして挙げられるのが、「よく使いがちな単語」。
とある統計学者によって開発された統計システムを使用すると、なんと「and」と「the」の使用頻度を調べるだけでも、高い確率で複数の作家の違いを認識できるそうです。
「and」や「the」に加えて200語以上の検討材料を用意することで、システムは100%に近い、高い精度で書き手を特定します。
ペンネームだろうがゴーストライターだろうが
たとえ覆面作家であっても、書き手を見抜くことは可能だといいます。
例えばJ.K.ローリングはロバート・ガルブレイスという別のペンネームを持っています。
彼女はガルブレイスとして、ローリングとは全く違うジャンルの異なる文体を意識して作品を書いているのですが、統計システムはそうした文章であっても、2人が同一の書き手である可能性を見抜いてみせます。
他にも、「共著で書かれた文章は、誰がどれくらいの割合を担当しているのか」といったことまでわかってしまいます。
文章には、書き手ならではのクセがどうしても残ってしまうということです。
統計でテキストを解析することの有用性が高いことがよくわかります。
統計に裏付けられた良本ブックガイド
「名著」と呼ばれる作品は、文章術をどれだけ実践している?
文章はできるだけシンプルに。
副詞や感嘆符を多用して書かれた小説は、良い小説とは言えない。
このようなことを主張する著名作家は結構いるようなのですが、
- その文章術、ほんとうに効果があるの?
- 「名著」と呼ばれる作品は、文章術をどれだけ実践してるの?
- 主張している本人は、自分でもちゃんと実践してるの?
といった点を、本書は統計で検証していきます。
副詞(語尾に-lyがつく言葉)や感嘆符の使用を抑えた作品は、本当に「高く評価された」作品として売れているのか。
「副詞の使用を控えよ」と唱えたスティーヴン・キングは、自分でもそれを実践しているのか。
そうした文章術を活用していて、かつ売れる本を多く出している作家の作品は、それだけで「読みたい!」と思ってしまいます。「作品の評価を数字が裏付けしている」と考えると安心感が湧くからでしょうか。
さらに統計による調査は、そうした通説に則ることなく、独自の手法を貫いている作家の存在も浮き彫りにします。
逆に「ルールを無視した」作品がなぜ有名になったのか、こちらも気になって読みたくなるので、最終的に「読みたい本リスト」は膨大な量になっていきます。
文章を書く上で参考にすべき作品や知識も満載
読書好きな人だけでなく、小説家になりたいと思っている人にとっても、知っておいて損はない情報がたくさん散りばめられています。
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ジェンダー・バイアスの有無を判断する「ベクデル・テスト」 - 近年の文章は「バカっぽい」?
文章の複雑さ、単純さを計測する「フレッシュ – キンケイド」 - ディケンズやヴォネガットのお得意手法「首句反復」(アナフォラ)
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著者は、このような文章にまつわる様々な手法を「取り入れるべきもの」として紹介するのではなく、あくまで「取り入れた作品がこういった効果を発揮している(orしていない)」などといった客観的な視点で説明しています。
それぞれの手法の有益性に賛否両論はありそうですが、知識として知っておくことは決して無駄なことではありません。
本書で紹介されている作品を読みながら、自分なりの文章を作り出していくための一助として活用するのもありなのでは?と思います。
英米文学好きなら手元に置いておきたい1冊
結論としてまとめると、本書を読むことで、新たに読みたいと思える小説が爆発的に増えます。
すでに読んでいる本で「もう一度読みたいな」と思う作品もたくさん出てきます。
さらに、全く知らなかった、もしくは興味のなかった作家の小説に手を伸ばしてみるきっかけにもなると思います。
知っていたけどなんとなく先延ばしにしていた作品も「やっぱり早めに読んでおこう」と思ったりもします。
巻末には、本書で取り上げている膨大な数の作品リストがまとめられているので、改めて見直しながら、読みたい本を選ぶ助けになります。
今までにない斬新な視点で作られたブックガイドとして、1冊手元に持っておくと今後の読書ライフがより楽しくなるのではないでしょうか。英米文学ファンにはおすすめの本です。