YouTubeでついつい猫の動画を貪るように観てしまう、癒しを求める人たちへ。
- 猫が好きで、飼い猫を可愛がっている。
- 猫が好きで、いつか飼いたいと思っている。
- 猫が好きで、飼いたいけれど諸々の事情により飼えない状態にある。
- 猫が好きで、飼っていたけれど亡くなってしまった、もしくは行方不明になっている。
そんな全ての猫好きに読んでほしいエッセイ、それが『ノラや』です。
ここまで猫への愛に溢れた文章を、私は他に読んだことがありません。
気がつくとYouTubeのおすすめが「ねこ動画」だらけになっている私ですが、どんなに再生回数の多いねこ動画よりも愛おしい。
全ての猫好きの心を癒してくれる、内田百閒の猫愛に溢れたエッセイです。
目次
作品紹介
内容を簡単にまとめてしまうと、
「ただひたすらに猫を可愛がるおじいちゃんが、いなくなった猫のことを想って毎日のように涙を流しながら綴る随筆文」
なんですけど、これがもう本当に愛おしい。
著者は夏目漱石の門下生でもあった小説家、内田百閒(うちだひゃっけん)。
昭和31年〜45年頃までに発表された随筆文14篇が1冊にまとめられています。
自宅の庭にちょこちょこ姿を現すようになった野良猫が、次第に著者に懐くようになり、ノラという名前をつけて可愛がります。序盤はノラを可愛がる幸せな文章が綴られて、読んでいるこっちも顔がほころび、多幸感でいっぱいになります。
最初は「別に猫なんてそこまで好きじゃないんだけど」という感じで、素っ気なかった百閒先生。
でも段々と愛着が湧いてきて、家に入れてあげたり、好物のお魚をあげたりするうちに可愛くてたまらないといった感じになり、外出して何日か留守にしている間も、家にいるノラが心配で眠れなくなってしまう姿などが微笑ましくてほんわかします。
ところがある日、ノラは家を出ていったまま行方不明になってしまいます。警察に捜索願いを出したり、新聞に広告を載せたりして目撃情報を募るのですが、なかなか見つからない。
今頃ノラはどうしているだろうかと心配し、毎日のように涙を流すおじいちゃん。淋しくて堪らず、どうしても泣くのを我慢できない悲痛な心情が胸に響きます。
そんな中、ノラによく似た猫が頻繁に庭に姿を現すようになって、その猫にクルツという名前をつけて可愛がるようになり…
という感じで、猫との生活の様子や思い出が描かれていきます。
作り話でもなんでもない、お涙頂戴的なストーリーでもない、著者本人が体験した実話だからこそ心に響く文章。
感じられるのは、ただ実直に猫のことを想う深い愛情。
苦しさと愛おしさで胸がいっぱいになるお話です。
全ての猫好きの心を癒す文章
この本に関しては正直、
多くは語るまい。猫好きならば読めばわかる。
という一言に尽きます。
それでもさらに強いて言葉にするのであれば、それは「癒し」です。
猫を飼っている人も、飼ったことのない人も、かつて飼っていたけど失ってしまった人も、全ての猫好きを癒してくれる文章が「ノラや」には詰め込まれています。
YouTubeで観るねこ動画は、主に視覚でねこを認識しますが、内田百閒先生の文章は五感を刺激してきます。
読者はそれぞれの頭の中に、思い思いのノラやクルツの姿を浮かべて、ごろごろ寝転がる様子やニャアニャアと鳴く声を想像するのです。
読んでいるだけで、まるで自分の手が猫の柔らかい毛並みを実際に撫でているような感覚に包まれます。
カレイや鯵の刺身を一切れずつ、うまそうに食べる猫たちの咀嚼音を、自分もすぐ側で聞いているような気がしてきます。
もはや本物の猫を眺めているよりも愛おしくてかわいく感じる。
至福のひととき。はああ、癒し。なんという癒しだこれは。
さらに、内田百閒は明治生まれの小説家なので、旧仮名遣いを使った古風な文体がまたいい雰囲気を出しています。
寝てゐる私の顔のそばに自分の鼻面を近づけて、大きな声でニヤアニヤア云ふ。或は私が掛けてゐる毛布の中へもぐり込む。
「クルやお前か」より
さうしてすぐに寝入ってしまふ。
昔ながらの日本家屋と猫はなぜかよく似合います。
同じく、古い文体と猫の描写は、緑茶とせんべい並みに相性抜群です。
縁側で昼寝する猫を眺めている時のような、平和で穏やかな気持ちになれる幸せ。疲れた心に癒しを与えてくれます。
猫と生活を共にする喜びと悲しみを教えてくれる
猫を可愛がる喜びがたっぷりと描かれているからこそ、猫を失った時の著者の悲しみの描写は余計につらく、大きく心を揺さぶられます。
猫が心配で心配でたまらなくて、毎日泣いて涙を止めることができないおじいちゃんの心の叫びが胸を打ちます。
猫を飼うということは、幸せでもあり、苦しむこともあるということ。
『ノラや』は、嬉しい部分も悲しい部分も、猫と暮らすことの全てを嘘偽りのない言葉で語ってくれます。
- これから猫を飼いたいと思っている人には、必要とされる覚悟を教えてくれます。
- すでに飼っている人は、よりいっそう猫を愛することができるようになるでしょう。
- 愛猫を失って辛い想いをしている人は、著者の気持ちに共感し、カタルシスを得ることで癒されるのではないでしょうか。
全ての猫好きに読んでほしい猫エッセイです。
その他、師匠である夏目漱石の名作を元に、こんな物語も書いています。
その名も『贋作吾輩は猫である』。
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