タイトルや表紙からしてだいぶふざけている感じのこの本。
昔よく見かけたポップ体のようなチープな雰囲気の書体で印字されたタイトルと、「メェ」という吹き出しがついたおかしな人間とヤギの写真。
クレイジーなイメージを強調する意図なのか、全体が黄色く縁取られたデザインになっている。
こういうタイプの本にはたまに本屋さんで出くわすけれども、私は大抵の場合、手には取ってみても、買うまでには至りません。気にはなるんだけど、「もっと自分の為になる本にお金使った方が良い」というマジメ意識がどこかにあって、ストップをかけるんですよね。
それでも買ってしまったのは、その時の私もよっぽど人間をお休みしたかったんでしょう。
ヤギになりたいとは思わなかったけども。
けれども結果的に、この本を買って読んだのは正解でした。
けっしてくだらない本などではなかった。
半年後くらいにまた読み直したいとすら思っています、
それは、この本が目標達成の秘訣を教えてくれるとてもためになる本だからです。
目次
『人間をお休みしてヤギになってみた結果』の概要
人間は悩む生き物。悩むのは辛いから、いっそ動物になってしまおう!
この本の筆者は過去に「トースターをゼロから作る」というプロジェクトで脚光を浴びた、イギリス人のトーマス・トウェイツさん。それから4年が経ち、当時の栄光は色褪せ、33歳にしていまだに定職に就けず、うだつのあがらない日々を過ごしていました。
将来のことが心配になりつつ悶々と過ごす日々の中で、トーマスさんはとある奇抜なアイデアを思いつきます。
人間は、過去や未来のことでいろいろと思い悩む生き物だ。
こういう人間特有の悩みを、数週間ほど、消すことができないだろうか?
例えば、少しの間動物になって、本能のままに生き、世界中のややこしいことや自分自身から距離を置いて生きられたらすごくないか?
誰だって一度は、自分が動物になれたらと考えたことはあるんじゃないでしょうか。私はありますよ。もちろん自分が動物にはなれないことは重々承知しています。想像するだけです。
しかしトーマスさんはこれを本当に実行に移すため、壮大なプロジェクトを計画します。その計画を遂行するべく、トーマスさんがあれこれ試行錯誤する過程を描いたのがこの本というわけです。
想像以上に本気でヤギになろうとしている
書店でこの本を手に取った際、目次をざっと確認して、パラパラとページを繰りながらザッとかいつまんで読んでみて、驚いたのを覚えています
この人、マジでヤギになろうとしている。
なんと、「ウェルコムトラスト」とかいう親切な機関(医学研究支援等を目的とする英国の公益信託団体)に企画書を提出して、支援金を受け取るところまで漕ぎつけてしまいます。
こんなアホみたいな企画を提出するトーマスさんの度胸にも恐れ入るけれども、承認してしまうウェルコムトラストの方もなんだかぶっとんでいる。
世界は広い。そして、世界は捨てたもんじゃない。
さらに驚くのが、くだらない遊び半分の計画なのかと思いきや、わりとしっかりと企画の内容が考えられていることです。その概要は下記のようなものでした。
- 二足歩行から四足歩行に適応する外骨格を製作
- 草を食べて消化できるような人工胃腸を開発
- 経頭蓋磁気刺激を使って、思考レベルを動物と同じレベルにする(将来のことを考えなくなる、言葉を喋ることができなくなるようにする等)
すごい、ちゃんと科学的。そして具体的。
トーマスさん、実はものすごく頭いい人なんだな、と思います。
外骨格、人工胃腸など、ある程度事前リサーチをして一定以上の知識を得ていないと、こういった具体的な計画は立てられません。
バカバカしい様に思えたこのプロジェクトは、思ってたよりもちゃんとした内容でした。
つまりこの本は、トーマス・トウェイツさんが本気でヤギになることに挑む過程を描いた、本物のドキュメンタリーなのです。NHKとかが映像化してもおかしくない大規模プロジェクトです。
「〇〇してみた」系企画の究極形態
近年、YouTubeでは、「〇〇してみた」系の動画が大量に上がっています。
作ってみた、歌ってみた、食べてみた、演奏してみた…何をするかはなんでもいいけど、普通の人にはできないようなことである方が面白いので、企画力が試されます。
「人間をお休みしてヤギになってみた」トーマス・トウェイツさんは、世にはびこる「〇〇してみた」系YouTuber達とは、企画の規模が段違い。
ヤギになるべく、あらゆる分野において科学的なアプローチを試み、理想を形にしていきます。
ヤギ行動学のエキスパートや、言語神経科学の博士、義肢装具士など、それぞれの分野を専門とする優秀な専門家達に次々と協力を取り付けていく行動力もすばらしいです。物怖じせずにどんどんいろんな人と接する社交性の高さもうらやましい。見習いたい。
知識、知恵、思考、行動力、さまざまな優れた要素を兼ね備えたトーマスさんを「ただのアホなことを思いつく人」とは次第に思えなくなってきます。
一流の知識を持つ人たちを寄せ集めたら、こんなにすごいことができちゃうんだぜ!っていうワクワクと感動を与えてくれる、壮大な「〇〇してみた」企画をこの本で読むことができます。
一見バカバカしい企画から学べるたくさんのこと
自由な発想と、行動に移す勇気
読んでいて面白かったのは、最初の計画ではトーマスさんはヤギではなく象になろうとしていたということです。
しかし技術的な問題や、計画の根本的な方向性の問題で、彼は象になるのをやめたくなってしまいます。 わりと早い段階で、あっという間に挫折してしまうのです。
で、どうしたかというと、象の代わりになんの動物になればいいのかを、なんとシャーマンに相談しにいきます。
「ちょっと人間をやめたいなと思って象になろうとしたんですけど、難しいみたいなので、代わりにどんな動物になったらいいのか聞きにきました」
なんて説明したらドン引きされるとか考えないのか?
とか思いながら読み進めていたら、本当にシャーマンのところで自分の状況をまさにそんな感じで説明していたので笑ってしまったよ。
案の定、思いっきり呆れられ、はっきり「マヌケ」と言われてしまうものの、トーマスさんは決して折れません。
驚くべきことに、シャーマンとの対話を通じて、きちんとその後の計画の方向性を見出していきます。マヌケだとバカにされることを恐れず、思いついたことをやってみる勇気がいかに重要なことかを教えてくれる。
どんな知識も吸収していこうとする姿勢
シャーマンは動物と人間の関係についてのスペシャリストなので、話を聞きながら、古来より続く人間と動物との関係性を学び、かつてヘラジカなどの動物に変身しようと試みていた狩猟民たちの思想を辿っていきます。
そこから、「人間と動物の違いとは何か」、「私を私たらしめるものは何か」などといった哲学的なテーマについて熟考し、「身も心も動物になりきるにはどうしたら良いか?」という疑問に結びつけていくのです。
知識を得て自分なりに理解を深め、学んだことを自分のプロジェクトに活かして活路を開こうとする頭の良さ。こういう思考回路を辿ることは、こちらも読んでいていろいろと勉強になります。
その後も、四足歩行のための義肢を製作したり、人工胃腸の製作を目論んだりするたびに、トーマスさんはさまざまな専門家と関わりながら、多くの知識をぐんぐん吸収していきます。
そしてそれらの知識を総動員して、プロジェクトの成功のために為すべきことを遂行していくのです。
目標に向かって進み続ける力
人間がヤギになるなんてはっきり言って無理がありまくるプロジェクトなので、当然のように様々な困難の壁が立ちはだかります。 その度にトーマスさんは打開策を考えて、常に目標に向かって猪突猛進し続けていきます。
その為には手段を選ばないし、人に笑われようとも気にしません。
専門学者にしつこくメールを送り続けて協力を取り付けたり、研究室を這いずりまわって、人間とヤギの体の構造について体を張って説明し、専門家を辟易させる。
ヤギの解剖実験を実現させる為、死んだ動物を運搬するのに必要な免許の取得までもやってのける。
文字通り、「できることは何でもやる」を実行する男。
そんな姿勢を貫き続けるトーマスさんの姿を文字で追っていたら、「自分なんて甘っちょろいなあ」と反省の念が浮かんできました。
自分はもっと簡単なことで挫折したり、あきらめたりしています。
例えば将来のために勉強しようという目標を立てても、「仕事が忙しくて時間がない」とか、「部屋が寒くてやる気にならない」とか、浅ーい理由で簡単にあきらめてしまっていたなあと思う。
忙しくても時間は作れるし、部屋が寒ければ着込めばいい。できることはなんでもやればいい。甘ったれるなと、自分に言ってやりたくなりました。
まとめ:目標達成に必要なこと
文庫本の表紙からは予想し難いけれど、想像以上にまともで大切なことを教えてくれる本です。
- 人に笑われることなど気にせずに、思いついたアイデアを育てていくこと。
- 自分が達成したい目標を明確にすること
- 学ぶことをサボらず、いろんな知識を吸収し、活用すること。
- できることはなんでもやる。どんどんやる。
そして、少しの勇気を持つことが必要です。
妙な感じだけど、人間をお休みしたいと思ってあれこれ試行錯誤するトーマスさんは、誰よりも人間として輝いている様に思えました。というか、実は全く人間をお休みしてないんですよね。
周りの評価を気にせず、目標に向かって本気で取り組むことで、「人間特有の悩みから解放されるために動物になる」という最大の現実逃避を、プラスの方向に昇華させてしまったトーマスさん。
この本を読むと、そんなトーマスさんのエネルギッシュな生き方にたくさんの活力と勇気をもらえる気がします。
なにか達成したい目標がある人はもちろん、人間をやめたいと思っている人も、(そしてヤギになりたいと思っている人も)この本を読めばきっと前向きな気持ちでがんばれると思います。