『教養としての「中国史」の読み方』書評|摩訶不思議な中華思想のロジック

教養としての中国史の読み方

お隣の国同士でありながら、いまいち理解し合うことができない日本人と中国人。

  • どうして中国と日本はうまくいかないの?
  • どうして中国共産党の一党独裁が続いているの?
  • 中国人の行動原理や思考回路ってどうなってるの?

そういった疑問を、中国の歴史を紐解きながら理解することができるのがこの本、『教養としての「中国史」の読み方』(岡本隆司・著)です。



黄河・長江から始まった長い長い中国の歴史をおさらいしながら、どのようにして「中華思想」が根付いていったのかを解説してくれています。

個人的には、世界史の中でも「中国史」はどうも苦手で(漢字が多すぎる)、あまり意欲的に学ぼうと思わなかった分野なんですが…

この本は「へええーおもしれー!」と思いながら最後まで読むことができました。読んで損のない良本です。

  

  

中国と日本はなぜうまくいかないのか?

そもそも、考え方が全く違う

本書を読むと、中国人と日本人の考え方が信じられないほど異なっていることに驚きます。

というより、中国の考え方があまりに独特すぎて、読めば読むほど理解不能な部分がたくさん出てきます。

例えばこんな話。日本では、賄賂は悪いことだとされていますよね。

中国の儒教では、増税は悪だとされている。(まあ理解できる)

税収を増やせないので官僚は収入が少なく、食べていけなくなる。(わかる)

官僚が賄賂や横領などの行為を行うのは、社会の必要悪である。(ん?)

増税よりは、賄賂や横領の方がマシだから黙認する。(???)

なんと中国では、賄賂は「必要悪」らしいです。感覚としては、チップをもらうような感覚に近いらしい。ただしチップは相場があるけど、賄賂は相場がないから幾らでも巻き上げられちゃいますね。

それでも、「増税する」という行為よりは賄賂の方がマシだとされているので黙認されるのだそうです。

この「増税=悪」という考え方は、中国の思想のベースになっている儒教からきているといいます。

なぜその「儒教」の方を疑わないんだ、と思うのですが、中国の歴史や思想はまさに儒教によって形づくられたものなので、簡単に切り離すことができないのです。

中国の思想は儒教の「自己中心思想」がベース

礼節を重んじましょうとか、親孝行をしましょうとか、日本人にとって儒教のイメージは良いイメージがありますが、それはあくまでも「日本で取り入れられた儒教」なので、似て非なるものだといいます。

中国の儒教は「自己中心的」というイメージが強いです。

中国の儒教の基本的な考え方

「修身・斉家・治国・平天下」

まずは自分の身を修め、次は家のことをととのえ、その後にようやく国や天下の問題に取り組む、という考え方です。

常に「私」が優先し、しかるのちに「公」に尽くすというのが、儒教の教えの基礎にある考え方なのです。

儒教に「進歩」という考え方は無い

「大昔はすばらしい時代だった。人間も生まれた時が最善の状態。人は最善の状態からどんどん堕落していくものである。だからその堕落をいかに食い止めるかが重要だ」という考えです。

儒教では、変えることは「悪」なのです。よりよくするとは昔に戻すことなので、われわれの考える「改善」は、改革とはいわずに必ず「復古」という言葉を用います。

未来は良くしていくものだ!という考えが当たり前になっている日本人、西洋人からすると、ものすごーく奇妙で不思議な思想に思えますね。

さらに考えを深めていくと「進歩=悪なら、中国で技術革新(製紙法・羅針盤・印刷術・火薬)はなんで起こったの?」という疑問が湧いてきますが、これにも彼らなりの論理がありまして…本書できっちり説明されています。

これらの儒教をベースとした思想が、歴代の中国王朝と合わさってどのような歴史を作っていったのか。改めて見直してみると、次第に中国独自の行動規範や国民性が理解できるようになっていきます。

「独裁→民主化」革命の大きな障壁となる中華思想

「対立」と「上下関係」を基本とした社会

中国の歴史は、儒教(特に朱子学)に基づいた「対立の構造」が常に社会を支配してきました。

  • 「士」と「庶」
    • 支配者と被支配者、儒教を学んだ知識人と一般大衆
  • 「漢」と「夷」
    • 漢民族と異民族

エリートである「士」と非エリートである「庶」は明確に分離されていて、中国人の中で大きな格差がある原因になっています。

また、漢民族を中心とし、異民族は外夷=野蛮人とする考え方も特徴的です。

中国の歴史は、複数の遊牧民族たちとの交流や衝突、融合を繰り返してきた歴史でもあります。

多民族国家である中国において、漢民族がそれ以外の民族とどのような立ち位置で関わっていくのかが、国の存亡を左右しているとも言えます。

隋、唐、元、清など、漢民族でない人々が統治した王朝の歴史を読み解くことで、ウイグル自治区や台湾、尖閣諸島などの地域を、中国がなぜ頑なに手放さないのか、理解を深めることにつながります。

中国は民主化を達成できるのか

一部のエリート階級が庶民を支配するという体制がずーっと続いていた中国ですが、近代では孫文や蒋介石らによって、民主化を目指す動きも出てきました。

しかし、広がりすぎた「士」と「庶」の格差を埋めるのはなかなか難しいことです。

経済格差が広がる一方の中国では、庶民は生活をやりくりするのに手一杯で、政治に口を出す暇などないのです。

中国共産党による一党独裁が終わる日は来るのか…?

長い道のりのようにも見えますが、例えばフランス革命は王政→共和政→帝政→共和政と、何度も体制を変えながら長年かけて最終的に共和政に落ち着きました。

中国における革命も、中国共産党の出現によって民主化への道のりは一時閉ざされましたが、フランス革命と同じように、革命は今もまだ続いているのだという見方もあります。

数千年も続く歴史を覆して、新たな国のあり方を切り開くのか、それともまた歴史を繰り返すのか、今後の中国に興味が湧きます。

  

まとめ

本書を読むと、日本人は、中国人のことをほとんど何もわかっていなかったんだなと実感させられます。

このような中国独特の思想への理解は、学校の世界史の授業では深めることができません。

もう一度中国史をおさらいするとともに、それらの歴史が中国人の思想にどのように影響していったのかを知ることは、日本人にとって有意義なことだと思います。

これは中国を貶すことではなく、理解するための学びです。

また、理解した上で「今後どう付き合っていくか」を考えるための学びでもあります。

著者は、これらの中華思想の特徴や由来について、他国の思想と比べて優劣をつけるのではなく、「まずは理解すること」の重要性を強調しています。

非常に公平な目線で、純粋に史実を理解しようとする著者の姿勢にも学ぶところがあり、まさに「教養としての中国史の読み方」を知ることができる、価値のある本だと思います。