今の世の中、ネットでいつでも本を買える時代ですが、それでも本屋に行く習慣がある人はまだまだ多いと思います。
ずらっと並んだ本を見回して店内を歩き回り、面白そうな本をじっくり探すのはリアル書店ならではの楽しみです。
しかし時たま、そうやって購入した本がイマイチ自分にハマらなかった、ということがあると思います。お金を払う以上、できれば自分に合った「当たり本」に出会う確率を高めたいですよね。
ということで、読んだら結構ためになったのがこちら。『本を売る技術』。
36年間、リブロ池袋本店をはじめとして様々な書店で本を売り続けた元ベテラン書店員、矢部潤子さんに取材して話を聞いた内容をまとめた書籍です。
矢部さんがどのような基準で「売れる本」を選定し、どのようにして書店の棚に本を並べていたのか、その極意を語った内容になっています。
その徹底したプロ意識と細やかな心配りには感嘆させられるばかりで、書店で働いている人や、これから書店で働きたいと思っている人にとっては大変勉強になる一冊なのではないでしょうか。
そう、この本は基本的には「書店員という職業に就く人やそれに関わる仕事をしている人」向けに書かれた本なのです。
しかしながら、私は「書店員になるつもりはまったく無い、ただの本好きな客」として、もうちょっと小ズルい視点でこの本を楽しませてもらいました。
本書を読むと、書店内の構造や並べられた本の配置には、書店員さんによる隠された戦略と思惑が隠されていることがわかります。
そうした「書店員さんの意図」、「書店に隠されたルール」を盗み見ることで、自分にとって最適な「当たり本」を探し当てる索敵能力と、「ハズレ本」を買ってしまわないようにする防衛術を学ぶことができるのでは?と私は企んでいるわけです。
目次
書店員にとって、本は「商品」
本書を読んでいて思ったのは、「書店員の本に対する目線って、意外とシビアなのねー」っていうことです。
考えてみれば当然なんですが、書店員にとっては、とにかく入荷してきた本を売り捌くのが重要な仕事です。本という「商品」を売る仕事なのです。
本棚のスペースには限りがあるので、多くの人に売れる本を優先して棚に並べたいし、売れない本は、たとえ自分が個人的に好きな本でも、スペースの無駄なので並べるわけにはいかない。
売れる本、売れない本をシビアに取捨選択することが求められるわけです。
1冊に想いを込めて、POPなども準備して、「この本を1000冊売ってやろう!」という仕事ができるのは、もちろん本好きな書店員の醍醐味。
ですが、それはあくまで「一発屋」を探す仕事であって、書店としてベースの売上をそこに頼りすぎるのはちょっと違うと。日常的に「売る」という基本の商売技術が土台にあった上で、そういった「仕掛け」を随所に盛り込んでいく、というイメージが理想的であるようです。
日々出版される新刊書籍は大量にあるので、それらの取捨選択が基本。
昨日売れた本は追加で棚に並べる。売れなかった本は棚から外す。置く場所を買えることで売れ出す本もあるので、売れる場所を見極め、位置を変えてみる。
そうやって工夫しながら本を並べて、できるだけ多くの「商品」をコツコツと売っていくのが書店員の仕事の主軸なのだということが、矢部さんの話からわかります。
誰よりも本を愛し、書店を愛し、誰よりも本に対してシビア。その「売り場作り」にかける情熱は本当に素晴らしくて、毎回「本屋に行くと楽しい」と思えるのは書店員さんのおかげなんだなーと思い、感謝と尊敬の想いでいっぱいになります。
しかし、私たちはそこで冷静にもならないといけません。
書店員さんの「本を買いたい気持ちにさせる技術」に翻弄されすぎないように…冷静に…自分にとっての本当に「良い本」を探すんだ!という強い信念で…
…負けそう(笑) 買っちゃうなーこれは。
ただ、私たち読者(客)にとっては、本は「情報コンテンツ」であり、「教材」であり、時には「嗜好品」みたいなものでもあるので、当然「自分に合った良質な内容の本」が欲しいわけです。
しかしながら、基本的に書店員が棚の1番目立つ場所に並べるのは「売れている本」、「話題の本」であるということを覚えておくことは重要だと思います。
「売れている本=良い本である可能性が高い本」ですが、必ずしも「売れている本=自分にとって最良の本」とは限りません。
でもついつい、「良さげだな」と思ってよく吟味せずに買ってしまう。
「ハズレ本」を引いてしまう原因の1つが、ここに隠されている気がします。
書店に並ぶ本のルールを知った上で
従ってみる
本棚の本の並びは、基本的にはお客さんが左から右に歩いていくのを想定して並べられているそうです。著者のアイウエオ順も左から右へ、同一著者の作品は発行年順に左から右へ。
もちろん書店によってマチマチなのかもしれませんが、こうしたルールを知っているだけでも、本を探すのが楽になりそうです。
その他、平置きされている本の並びにも一般的なルールがあるそうです(1番売りたい本が手前の左端に置かれているなど)。
本書を読んでそのルールを知ることで、どの本が「売れている本」「売りたい本」なのかを推測する手がかりになります。
図解付きで説明されていてイメージも湧きやすく、この「本を並べるときのルール」の解説が1番興味深くて役に立ちそうな内容でした
まずは、こうした書店員の作るルールに添いながら本を眺めていくと、効率よく本を吟味することができそうです。
抗ってみる
本書を読んで書店員の目論見を知ったのなら、それを逆手に取ることもできるはずです。
書店の目立つ場所に並ぶ本が
- 本当に質の良い本だからおすすめされているのか
- 話題になっている本だから並べられているのか
を見極めることが、ある程度できるようになるのではと思います。
世間で話題になっている本が果たして自分に響くものなのかどうか、いったん冷静になって吟味する余裕が生まれます。
また、置かれる場所によって1冊の本の見え方もガラッと変わるそうです。
目が肥えた書店員さんは、並んでいる本同士の繋がりや文脈みたいなものを感じとって、本が1番輝いて見える場所を見つけるのだそうです。
できれば色々な本屋に行って、「この本屋はこういう意図でこういう客層向けに本を売ろうとしているな」というのがわかってくると、自分に響く本が置かれている場所をなんとなく推測できるようになるはずです。
書店での本探しが楽しくなる本
『本を売る技術』を読むことで、書店で本を探すのがちょっと楽しみになってきます。
「この本に書かれてること、本当なのか?」と確かめたくなって、「本屋さんに行きたい!」という気持ちはさらに増してきます。
ネット書店では味わうことのできない、本屋さんの魅力を改めて知れる本。
面白いです!
本屋で本を探すなら、本屋のことを知るのが近道だ