ヒツギム語という言語をご存知でしょうか。
日本国内でヒツギム語を教えている語学学校は「フンダルケッツ」という名前で経営している外国語会話教室だけだそうです。
ヒツギム語をいくつか紹介しましょう。
「クサ」は「いいね」
「クサッテラ」は「ちょっと違う」
「クサイ」は「とてもいい」
「クッサイ」は「すごくいい」
「ソレダスナ!」は「あれを持ってこい!」
「ソノヘンガ、ドウモ、オオクテ、ドウモネ」は「それをあなたに渡す、いま渡す」
覚えました?
さて、ヒツギム語で「兄」「弟」「母」はそれぞれなんと言うでしょうか?
答えは小説『サーモン・キャッチャー the Novel』を読めばわかります。読んでフフッと笑いたい人は読んでみましょう。
目次
『サーモン・キャッチャー the Novel』概要
あらすじ
黒い鯉を釣ったら1ポイント、色のついた鯉を釣ったら5ポイント、ポイントを貯めたら景品と交換。そんな営業形態の釣り堀店を中心に、6人の登場人物が入り乱れ、次々と事件が巻き起こっていく群像劇です。
それぞれに問題をかかえた個性豊かな登場人物たちが、些細な勘違いの連鎖によっておかしな出来事を引き起こし、ちょっとズレた会話や行動にフフッと笑ってしまう、コミカルなストーリーになっています。
前述のヒツギム語を話す外国人や、語学学校「フンダルケッツ」でヒツギム語を勉強する女の子も登場します。(ちなみに、おわかりだと思いますがヒツギム語は架空の言語です。)
読みやすい群像劇
一般的に、群像劇となると「登場人物が多すぎてわけわからんわ」ってなりがちじゃないですか。私も群像劇は好きなんですけど、「ある程度集中して読まないと」って、読む前に覚悟が必要だというイメージを持ってました。
しかし本書はそうならないようにとても工夫されているなーと感じる作りになっています。読みやすいです。
何より、6人の登場人物たちはそれぞれキャラクターが際立っていて区別がつきやすいので、混同することがほぼありません。確かに読み始めは、登場人物があまりに多いので「どんだけ出てくるんだよ!」と思うのですが、読み慣れてくると数多くの登場人物たちを脳内で処理しながらスイスイ読み進めている自分に驚きます。
場面が切り替わるごとに「いま誰の視点で語られているのか」が明確な作りにもなっています。
こんな感じで、場面が切り替わった1文章目の最初の主語が人物名になっていて、人物名がデカ文字になっています。このちょっとした工夫が読みやすい(※単行本の場合です。Kindle版はちがうかも)。
さらに、語られる視点はパッパッとこまめに切り替わっていきます。数ページ読んだら、別の登場人物の視点に切り替わる感じです。1人分のエピソードが無駄にダラダラと語られることがないのでテンポがよく、集中力が続きます。
この構成は、結構すごい工夫だなあ、と私は思うのです。
複数の登場人物の視点が1つの結末に集約していく感じも、よくまとまっていて最後はスッキリ「ちゃんちゃん」で終わります。
「群像劇で小説書いてみたい!小説家になりたい!」って思っている人はぜひお手本として読んでおくべき1冊なんじゃないでしょうか。特に中学生ぐらいの子なんかは、ヒツギム語の面白さに大喜びしてくれそうだし、こんな小説書いてみたい!って思ってくれたら良いですね。
漫画化、アニメ化したらきっと面白い
私が何よりも感じるのは、これを誰か漫画かアニメにしてくれないか、ということです。
『サーモン・キャッチャー the Novel』は、真面目に読むと、登場人物たちがそれぞれに抱える重苦しい過去に寄り添い共感しながらも、笑えるストーリーとして昇華して暗い過去を吹き飛ばそうぜ!みたいな作りになっています。
見逃してはならないのは、登場人物がそれぞれに持っている強力な個性とか、現実ではありえないアホみたいな行動とか、ヒツギム語という小ネタとかのおかげで、楽しく笑えてたまにしみじみ泣けるエンターテインメント劇になっているという構図です。このコミカルな部分が、漫画やアニメと相性ぴったりだと思うのです。
ぜひ漫画化してほしい人
個人的にはあらゐけいいちさんに漫画を描いてほしい。
全体のコミカルな雰囲気とか、荒唐無稽な感じとか、群像劇なところとかが、あらゐけいいちさんの『CITY』と似た匂いを感じます。
あの人ならきっと面白く描いてくれるはず。
あの独特の雰囲気で、キャラクターが「フンダルケッツ!」とか「ソレダスナ!」とか叫び出したら、きっと笑ってしまう。
『サーモン・キャッチャー』では、「神」と呼ばれている、長い白髭を生やしたおじいちゃんがいきなり全力疾走するシーンがあるんですけど、ああいう勢いのある雰囲気は『日常』に出てくる「みおちゃんが全力疾走するシーン」そのものです。どっちも読んだ人ならわかるはず。
あらゐけいいちさんが漫画を描いて、それを京アニさんとかがアニメ化して…が理想かな。
ぜひお願いします。届けこの想い。
なんにしても、あらゐけいいち作品を楽しく読める人はこの小説も楽しめるのではないかと思います。読みながら、登場人物が脳内であらゐけいいち風の作画に変換されます。
ちなみに映画化は
そもそも本作は、小説家の道尾秀介さんと劇作家・映画監督のケラリーノ・サンドロヴィッチさんがタッグを組んでコンセプトを練ったものだそうで、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが映画版を製作する予定になっているようです。
小説が発行されたのは2016年。だいぶ経っていますが、映画の話はどうなってしまったのでしょうか。実はすでに公開されたあとなのか…?
道尾秀介さん公式サイトでは、「※映画版は現在進行中です。」となっています。→http://michioshusuke.com/custom90.html
映画版はいつになるかわかりませんが、期待して待っております。