『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』あらすじ・感想|ビジネスマンのためのエンタメ推理小説

紙鑑定士の事件ファイル

第18回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品ということで、大注目された小説『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』

  

ミステリーとはいっても、じっくり考えて推理していくタイプではなく、どんどん行動していろんな手がかりを見つけて、犯人の計画を阻止するために奔走するっていう、動きのあるストーリー展開です。

私は「ミステリーとして楽しむ」というよりは、「あービジネスマンって、こうやって戦っていけると強いよねー」という戦略を学べる参考物語として、楽しみながら読ませてもらいました。

作品としては、テンポよくスピーディーに進んでいく物語なので、一気に読めて心地いい読後感です。

また、随所に出てくる紙の蘊蓄やプラモデルの知識が面白くて、マニアックな世界を知れるだけでも読む価値があります。

ミステリーだ!推理するぞ!とあまり気負わず、映画を観るような感じで楽しみながら読める小説です。

  

  

あらすじ

主人公は、自称「紙鑑定士」

名刺、コースター、書籍のページなど、あらゆる紙製品を手で触っただけで、どこのメーカーのどのブランドの紙なのか、言い当てることができる変態(褒め言葉)です。

出版社とか印刷工場を相手に、資材となる紙を卸す仕事をしているいわば「紙のプロ」です。

そんな「紙鑑定士」を、どんな事件でも解決する「神探偵」だと勘違いしてやってきたアホな女性が訪ねてくることで物語が始まります。

突如、探偵としての捜査を請け負うことになってしまった主人公。
手がかりとなるのは、とある戦車のプラモデル

「伝説のモデラー」と呼ばれるプラモデル造形家を仲間に引き入れて、「紙」のプロと「模型」のプロがタッグを組んで事件解決に挑みます。

捜査を進めるうちに、想像以上に凶悪な犯罪が実行されようとしていることに気づいた2人は、犯行を阻止するべく奔走します。

序盤からテンポよくスタートして、終盤はエンジン全開でガンガン進んでいく、スピード感のあるストーリーになっています。

紙と模型のマニアックな知識がおもしろい

やはりこの小説の一番の魅力は、

随所で語られる紙についての専門知識やら、プラモデルやジオラマに関するマニアックな情報がおもしろい

という点です。

プラモデルには全く興味がなかった私ですが、説明がわかりやすいので「へえーそうなんだ!」と感心しながら十分楽しめましたし、新しい世界が広がった気分でした。

著者の歌田年さんはかつて出版社で勤務されていた経験があるとのことで、普通に生きてたら知るはずもない、紙に関するうんちくをかみ砕いて(ダジャレじゃないよ!)面白く語ることができるのは、さすがといった感じです。

ちなみに、あらかじめ心得ておくといい点ですが、タイトルは『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』となっていますが、もともと「このミステリーがすごい!」大賞への応募時は『模型の家、紙の城』というタイトルでした。

つまり、「紙」の知識よりも「模型」の知識の方がメインで出てくる内容になっています。

「紙鑑定士」という言葉が斬新でキャッチーなので、販売戦略の都合でタイトルも変えられたわけですね。その辺の事情を知っておいた上で読むと、気持ち的なギャップが少なく読めるかと思います。

  

「ビジネスマンの生き残る術」が隠されている?かも

「このミス」大賞受賞作なので、ミステリー好きはもちろん飛びつく小説なのだと思いますが、意外とビジネスマン向けの小説でもあるのでは?と個人的には思っています。

立ちはだかる難題を前にしながら、己が持つわずかな武器を駆使して乗り越えていくハードボイルド・ミステリー

として、主人公の立ち回り方を参考に読んでいくと、なかなか面白く読めます。

サラリーマンとして働いてると、あるとき急に部署異動を命じられて、それまでとは畑違いの仕事をやらされることってあるじゃないですか。

中小企業なんかだと、部署を超えていろんな仕事を兼任しなきゃいけなかったりもしますよね。

主人公も、紙を専門とする仕事をしてるのに突然探偵業をやれと言われて、「いや無理だろ」と思いながらも、自分の弱小事務所を存続させるため、報酬金目当てでがんばるわけです。

変化する環境に翻弄されるサラリーマンが、それでもたくましく生きていくためのヒントみたいなものが、意外と参考になるんじゃないかなと思わされるストーリーになっています。

その極意を例にあげるとすれば、下記です。

  • 自分の中に切り札を持つこと
  • 人脈を大切に、「その道のプロ」を味方につけること

自分の中に切り札を持つこと

これに関しては、「紙鑑定」という特殊な知識を持っていることは言わずもがな。

その他にも主人公は、トランプで手品ができるという特技を持っていて、いざという時に場を和ませるコミュニケーションツールとして使用したりしています。読み進めていくと、この切り札が意外なところで大活躍してちょっとした盛り上がりを見せてくれます。

マニアックなことでも何か1つ特技を身につけておくと、役に立つことがあるかもなーと思えます。

人脈を大切に、「その道のプロ」を味方につけること

「伝説のモデラー」を仲間にしたことで、主人公は強力な味方を得ることになります。

もはやこの物語、紙鑑定士よりもプラモデル造形家の方が主人公じゃない?っていう声が挙がるくらい有能な仲間です。

逆に言うと主人公は正直、紙の知識と人脈の広さと、フットワークの軽さくらいしか取り柄のない一般人です。

だからこそ、主人公の持つ幅広い人脈が、事件解決に大きく役立っていきます。

自分がわからない分野は「その道のプロに頼れ!」という精神で、仕事上で得た幅広い人脈に頼って助けてもらうことで乗り越えていく主人公。

そして助けてもらったら、お礼の言葉と菓子折りの持参を忘れない。
しっかりビジネスマンしています。

ちなみに人だけでなく、全知全能の友、Googleにも頼ります。

この小説を読んで改めて思ったけど、Google Mapって便利ですよねー。ストリートビューのおかげで、自分で足を運ばなくても、簡易的に現地視察ができる優れもの。ミステリー小説も近代化しています。

要するに、「その道のプロ」は有機無機問わず、味方につけろ!ということです。

『ONE PIECE』のルフィほどの人間的魅力は無いとしても、やっぱり人脈って強い武器になるんだなーと思わされる主人公です。

仕事の合間に息抜きとして楽しめるエンタメ推理小説

その他、畑違いの分野の専門知識であっても、人まかせにしすぎることなく、自分でも知識を吸収していこうとする姿勢で専門家の話に耳を傾けたりと、主人公には学ばされるところが多いです。

もちろんこれはビジネス本ではなく小説なので、あくまで物語をエンタメとして楽しみながら、いくつかヒントを得られればそれで十分です。

仕事の合間に息抜きとして、もしくは通勤電車内での軽い読書として、読んでみてはいかがでしょうか。楽しみながらも学べるところがあり、面白く読めるのではと思います。


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