『帳簿の世界史』書評|会計能力の良し悪しが歴史を左右してきた

帳簿の世界史

会計と歴史のプロフェッショナル、ジェイコブ・ソールによって書かれた『帳簿の世界史』



『帳簿の世界史』とはどんな本か?簡単にまとめるならこんな感じです。

  • 「帳簿」を軸に西洋史を見直した新感覚の歴史書
  • まさに歴史から教訓が得られる本

いわゆる「学校で学ぶ世界史」は、人類発祥から近代史までを俯瞰して学ぶことがメインでした。人によっては苦行とも言える勉強だったかもしれません。

しかし、新たな視点で、例えば「帳簿」という視点で歴史を見直すと、当時の思想や国のあり方が目で見るようにありありと伝わってくるので面白いです。

また、人とお金は、生きていく上で切っても切れない存在です。

政治も、国も、会社も、家庭も。

お金のやりくりをちゃんとしてればうまくいくし、テキトーに管理してたり誤魔化して不正をしてると、確実に失敗するということは、歴史が明確に示してくれています。

歴史書としてもめちゃくちゃ面白いし、得られる教訓も多い。多くの人に読まれている名著です。

   

  

良い会計は社会を安定させる

本書は、いろいろな時代の会計事情を紐解きながら、社会の安定にどう影響していったのかを説明する内容になっています。

会計なんて全然重視されていたなかった中世の時代の、「お金に関する都合の良い論理」は読んでて笑えます。

また、「会計をちゃんとしよう!」とようやく人々が思い始めてからも、なかなかうまくいかない国々の歴史は、痩せよう!と思ってるけど痩せられない人間の性を見ているようで、自戒の気持ちすら湧いてきます。

最後の審判への恐怖が、帳簿をつける習慣を生んだ

西洋の歴史は、キリスト教と共に歩んできた歴史です。

キリスト教はお金儲け=罪と考え、金貸業を禁止していました。

14世紀イタリアの商人ダティーニや、ルネサンス期に莫大な富を得た大商人コジモ=デ=メディチの心の葛藤は、今の日本人には不思議な感覚だと思います。

現世で罪を犯した人は、最後の審判で地獄に送られる…

当時の人々はこういったことを本気で信じていたようで、銀行家や商人といった職業の人々は、両替などでお金儲けをすることに対して、常に罪の意識があったようです。

では、どうやって心の平穏を保っていたのか。
そこで出てくるのが「心の帳簿」です。

商人たちは、監査用の人に見せるための公式な帳簿の他に、自分しか見ることのできない秘密の帳簿を持っていたと言います。

そこには税を免れる秘密の取引の内容だけでなく、日記のような内容も書かれていたそうです。

日々の行いを心の帳簿に書き留めて、「今日はこんな善行をしました」と神様に報告するのです。

富を得ることは罪だけど、善い行いをすれば埋め合わせになる。
最後の審判=最後の清算で、神様はきっと「心の償い」を認めてくださる。

そんな想いから、きちんと帳簿をつける習慣が根付いたのだそうです。

太陽王ルイ14世を支えた「会計の鬼」コルベール

栄華を極めたブルボン朝のフランスで、ルイ14世を支えた宰相コルベールの鬼っぷりも面白いです。

コルベールさん、変態か!?っていうほどの会計野郎で、財政状況に関する資料をテーマ別に100冊ものスクラップブックを作って管理していたのだとか。

国王が持ち運べる用のミニ帳簿も作ったり、頭おかしいんじゃないかってくらい仕事してます。

会計の精神を国に根付かせるため、教育用の教材を作ったりもしています。
その教材で、ルイ14世も熱心に勉強していました。少なくとも最初は…。

コルベールの死後、フランスがどのように変化していったのかは歴史が示す通りであり、本書はその詳細を「会計」という軸で解説してくれています。

  

  

お金が絡むと生じる人間の弱み

でもなんだかんだ言って、会計なんて難しいし面倒臭いですよねー。

子供のころつけてたお小遣い帳も3日坊主で続かなかったし、一人暮らしを始めてからつけ始めた家計簿も、1年続いたことはありません…。

そしてなにより、

節制しろ!と言われると、余計に贅沢したくなるのが人間というもの。

仕事の帰り道、ついついコンビニに寄ってお菓子とかジュースとか買っちゃったことを、いちいち家計簿に記録するのは嫌なものです。

ルイ14世も、そんな気持ちだったのでしょう。

自分の贅沢が克明に記録され、国家財政の赤字を見せつけてくる帳簿は、だんだんわずらわしいものになっていきます。

帳簿は、正しく有意義に活用されている時はすばらしいものです。
しかし帳簿は、君主としての統治能力を浮き彫りにしてしまうのです。

だれでもコルベールのような厳格な人になれるわけではありません。
人間は誘惑に弱いのです…。

厳正な会計を貫き通すのは非常に難しいことだと、著者自身も認めています。そしてその上で、著者は序章の部分にこう書いています。

本書を通じて示したいのは、会計が単に商取引の一部ではなく、倫理的・文化的枠組みに溶け込んでいる時は、会計責任はよりよく果たされるということである。

「お金のやり繰りの管理なんて身分の低い者がやる仕事だ」という風潮は、国家の財政破綻の一因となってきました。

本書を読めば、会計の仕事を軽んじる風潮が決して良いものでないことが理解できるはずです。

会社で経理を担当している人や、家族の中できちんと家計簿をつけてくれている人に感謝して、敬意を示せるような関係が築けるといいですね。

お金にまつわる教訓を歴史から学べる本

生きている以上、人は必ずお金と付き合っていかなければなりません。自分を取り巻く環境は、「お金をうまくやりくりできるか」にかかっています。

私は会計の知識などまったくありませんが、自分なりに理解しながら楽しんで本書を読むことができました。逆に「簿記とか勉強してみようかな」と思うきっかけにもなりました。

本の最後の方では、リーマンショックなど現代の世界情勢にも触れています。その辺は私にはちょっと難しかったですが、知識がある方はその部分も楽しく読めるんだろうなーと思います。

なんにせよ、お金が絡むと歴史上の人物の性格が如実にあらわれて面白い!です。

新しい視点で歴史を学べる上に、人生の教訓も学べる、価値の高い良本だと思います。


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