『猫はこうして地球を征服した』書評|猫は人間を飼い慣らしている!

猫はこうして地球を征服した

実は猫好きなら薄々気づいてる方も多いかもしれない、こんな疑惑。

人間が猫を飼っているんじゃない。
猫が人間を飼い慣らしているんだ。

それを知ってもなお「よろこんで猫に飼い慣らされます!」という真の猫好きたちに捧げたい本。

それが、アビゲイル・タッカー(著)『猫はこうして地球を征服した 人の脳からインターネット、生態系まで』です。


本書は、太古の昔から始まった「猫と人間の歴史」を紐解くところから始まります。

そして猫がどうやって世界中へ勢力を拡大し、どの様にしてYouTubeなどのオンライン世界を席巻するまでに至ったのか

そこに隠されたさまざまな事実を科学的に明らかにした本です。

   

   

ネコのおかげでヒトは進化した

考えたこともなかったですが、まだ人間がほとんど猿に近い存在だった頃、私たちはネコ科の動物たちに捕食される側の生き物でした

その頃は草食中心だった私たちの祖先。一体いつから肉食になったのか?

なんと、人類の祖先がお肉の味を覚えたのは、ネコ科動物が食べ残した肉(動物の死骸)を拝借したのがきっかけらしいのです。

ヒョウやサーベルタイガーなどの肉食動物が食べ残した動物の死骸を見つけた彼らは、ちょっと盗んで食べてみたわけです。

肉食動物が「後で食べよう」と思って残しておいたのをこっそり拝借したり、

もしくは、大きな牙では食べきれないような、細かい骨などに残った食べ残しをもらったり。

そうして、お肉の美味しさと栄養価の高さに気づいた私たちの祖先は、狩りをすることを覚えます。道具を作り、集団でコミュニケーションをとり、戦略を練ることで脳はどんどん発達

そのおかげで私たちヒトは進化し、食物連鎖の頂点に立つことができたというわけです。

あくまでも学者たちの仮説ですが、なかなか興味深い話で面白いですねー。

役に立たないのになぜ人は猫を飼ったのか?

犬の方が役に立つのに

そもそも人間は、役に立つから動物を飼い慣らしてきたわけです。

羊とかヤギも、毛が取れるし乳も取れるし肉も食べれるし。

犬ってめちゃくちゃ人の役に立ってますよね。
警察犬とか、麻薬探知犬とか、盲導犬とか。

では世界で犬よりも多く飼われている猫は、どんな役に立ってきたのか?

この本によると、どうやら猫ってあんまり人の役に立たないらしいんですよ。

いやいや、ネズミ獲ってくれるじゃんって思うんですけど、いろんな学者さんへの取材を進めると、「繁殖力がめちゃくちゃ高いネズミを撲滅させるほど、猫はネズミを殺せない」ということがわかってきます。

最近よく聞く「アニマルセラピー」に関しても衝撃の事実を知らされます。

ほんとうのことを言うと、ネコが健康に良い影響を及ぼすという証拠は、あまりないんです

猫より犬の方が健康効果は高く、犬を飼ってると散歩したりして健康になるけど、逆に猫の飼い主は運動不足になりがちで、太ってたり血圧が高い人が多いのだとか。ほんとかー!?

絶滅危惧種を食い荒らす

さらに目を背けたい真実として、国際自然保護連合は、イエネコを「世界最悪の侵入生物種100のひとつ」に位置付けているとのこと。

人間と一緒に世界各地へ渡り、住み着いた猫たちは、その土地固有の在来種を食い荒らして絶滅の危機に陥れているらしいのです。

その悪名高い食い荒らしっぷりが次々と暴露されていくのを読んでいると、「猫を安易に外に出して逃したり、捨てたりする人間も罪深いな」という気持ちになります。

そしてそのせいで多くの猫たちが殺処分されていることも事実。

猫好きが猫に対して抱いていた幻想がガラガラと崩れ去り、人間としてのモラルすら問われる。

本書は「本当に猫を愛せるのか」試される本でもあるのです。

  

  

「かわいいから飼う!」すべては猫の策略

猫はかわいいから飼う

人の役に立たず、害獣扱いされることすらあるのに、なぜ人は猫を飼うようになったのか。

その結論は、かわいいから。

猫の体のフォルムや動き、鳴き声、大きな目などは、人間の赤ちゃんによく似ています。とにかくかわいいのです。

そしてそれは、人間の赤ちゃんにあえて似せるようにネコたちが少しずつ進化してきたからなのだそうです。

人間が猫を飼おうとしたというよりはむしろ、猫たちが人に飼われるためにかわいく進化していったのだと。

人間に「かわいい」と思われることで、共に生活することを許され、餌をもらい、共に船に乗って世界中に勢力を拡大し、遂には家の中でぬくぬくと過ごす生活を手に入れました。

今や、ぐうたらしているだけで100万人以上の視聴者をとろけさせるネコYouTuberも存在します。

まさに人間を手懐けることで生活圏を拡大させていった猫、恐るべし。

この本がさらに面白いのは、他にもいろいろな視点をネタに、多くの学者に取材をしながら猫について科学的に語りまくっているところです。

  • 猫から人に感染すると言われるトキソプラズマによって、猫は人間の脳を操っている?
  • 室内飼いの猫は幸せなのだろうか?
  • 猫を飼う人間が気を遣うべきこと
  • なぜ猫はインターネットで大人気なのか
  • ハローキティは現代のスフィンクス

猫を大事にしたいなら

この本を読んで、「もっと猫を大事にしよう」と思える人は、きっと猫にも好かれる人です。

著者であるアビゲイル・タッカーさん自身も大の猫好き。
ときどき自身が飼っている愛猫を引き合いに出して、猫へのあふれる愛を書き綴っています。

一方で、取材を通して明らかになる数々の「猫に関するネガティブな情報」についても、できるだけ公平な目線で、ネコ贔屓しないように努めてフラットに書き記してくれています。

YouTubeなどできちんとした飼い主さんの猫動画を観ていると、猫がストレスを感じないように色々なことに気を遣ったり、些細なことでもこまめに病院に行って健康を保ったり、さまざまな苦労があることもわかります。

命を預かる以上は猫に尽くす覚悟を持って、人としてきちんと「飼い慣らされる」ことが大事だということですね。

真の猫好きならば知っておいて損はない、興味深い内容の本でした。