ウルズラ・ポツナンスキ おすすめ作品一覧

ウルズラ・ポツナンスキ おすすめ作品

ウルズラ・ポツナンスキは、主にミステリー、スリラー、サスペンスを得意とするオーストリアの作家です。

彼女の著作の1つ、『古城のゲーム』を翻訳した酒寄進一氏が同書に寄せた「訳者あとがき」によれば、「現代オーストリアエンターテインメント文学の三巨頭と言っても過言ではない」存在の1人として、オーストリアの文学界を盛り上げているようです。

ちなみに三巨頭の残り2人は下記。
マルク・エルスベルグ(主な著書:『ブラックアウト』『ゼロ』)
アンドレアス・グルーバー(主な著書:『夏を殺す少女』『月の夜は暗く』)

ポツナンスキの作品は、日本では2作品が翻訳版として出版されており、いずれも「ジオキャッシング」や「ライブアクションロールプレイングゲーム」といった、現実でも遊ばれている特殊なゲームをトリックに使った斬新な物語が印象的です。

おそらく日本人作家にはあまり書かれないような、独特の世界観を土台に敷いたミステリーとなっているので、目新しさを求めている読者には一読の価値がある作品たちだと思います。

作品一覧

古城ゲーム

原作:2011年、日本語翻訳版:2016年
酒寄進一(訳)、創元推理文庫

「ライブアクションロールプレイングゲーム」という実在のゲームを軸に描かれた物語。

複数人がそれぞれ騎士や魔女や薬師といった役になりきり、14世紀の中世ファンタジー世界を現実に再現しながら、森の中で数日間を過ごすというゲーム。異世界に身を投じて現実を忘れる楽しいイベントになるかと思いきや、参加者が次々と行方不明になり、森からの脱出も不可能に。恐怖に駆られた参加者たちは、やがて恐ろしいことを実行しようとし始める…。

日本では『ソードアートオンライン』というライトノベル・アニメが有名ですが、同作が「バーチャル世界での異世界体験」であるのに対して、『古城ゲーム』は、異世界ファンタジーを現実で再現しちゃおうぜ!っていうアウトドアな遊びがテーマになっています。

こういった作品は、古城や森が多いドイツ語圏の国に住む作者ならではという感じですね。

「ライブアクションロールプレイングゲーム」は現実世界でも遊ばれているゲームイベントだそうで、テレビゲーム大好きな日本人には新鮮で興味深いものに見えると思います。

「知らないうちに仲間が次々と消えていく」という展開はわりとお馴染みのものではありますが、土台にある「中世再現ゲーム」のおかげで目新しさが感じられて楽しめます。

「現実世界で役を演じていただけのつもりが、本当に異世界であるかのように錯覚して人間不信になっていく」という、現実と虚構の区別が不確かになっていく不気味さが面白い作品です。

〈5〉のゲーム

原作:2010年、日本語翻訳版:2014年
浅井晶子(訳)、早川書房

「ジオキャッシング」という地球規模の宝探しゲームをトリックに使った連続殺人ミステリー。

とある牧草地にて、足の裏に座標が彫り込まれた死体が発見される。座標が示す場所には、切断された片手と、新たな座標を見つけるヒントが書かれた手紙が隠されていた。ヒントを解き、次の座標に辿り着くたびに新たな人間が殺されていく。警察の捜査を弄ぶ連続殺人犯に、刑事ベアトリスとフローリンが挑む。

『古城ゲーム』に続き、またしても日本では馴染みの薄い実在のゲームが土台となる物語です。

本来の「ジオキャッシング」という宝探しゲームは、任意の場所におもちゃやコインなどのちょっとした小物を隠して、専用のアプリやサイト上にその座標を登録するというものです。サイトを見て、実際にその場所で宝を見つけた人は、「見つけました!楽しかったです。ありがとう!」などのメッセージを残して、持参した新たな宝物と中身を交換します。

「ポケモンGO」などと組み合わせたらより面白くなりそうなゲームですが、『〈5〉のゲーム』では、連続殺人のトリックとして使われてしまいます。

雰囲気としては、映画『セブン』(監督:デヴィッド・フィンチャー)のようなスリリングさやグロテスクさがあり、そういった作品が好きな人にはおすすめの小説です。

終盤で明らかになる犯人の動機には驚きましたが、意外にもその動機が主人公にも関連する内容になっていて、なんとも言えない物悲しさを感じます。

この作品の良いところは、主人公のキャラクターや背景がしっかり深掘りされているところです。

同僚へ密かに寄せる淡い恋心と、元夫との面倒な関係性、刑事としての仕事の合間に子供たちと向き合うことの難しさなど、様々な場面で葛藤する心情描写がしっかりと描かれています。

この心情描写が興味深いからこそ、凄惨な事件ばかり起こるストーリーを最後まで読みきれるのだと思います。

おすすめしたい作品

もともとは児童文学作家として大人気になったポツナンスキ。『古城ゲーム』はどちらかというと若者向けの作品として、その手腕を発揮させた作品だと言えるでしょう。

個人的には、『〈5〉のゲーム』の方がおすすめです。

日本語翻訳版では『古城ゲーム』より先に出版されていますが、原作はこちらの『〈5〉のゲーム』の方が後の作品になります。そのため、物語の進行の自然さや、謎解きの収束の仕方などの部分に、作家自身の技量の進歩が見られます。

『古城ゲーム』に比べて、『〈5〉のゲーム』は登場人物の心情や人間関係が丁寧に描かれており、物語に厚みが感じられます。

原作はシリーズものとして続いており、次回作が翻訳・出版される可能性もあります。ぜひ今のうちに1作目を読んでおくと良いのではと思います。